TR-C-0137 :1996.3.7

若林学

仕様記述段階でのサービス競合検出手法に関する考察

Abstract:近年の情報化社会の進展にともない、通信サービスに対する利用者の要求も ますます多様化・高度化している。ところが、サービスを単独で提供する場合には 問題はなくても多くのサービスを同時に提供する場合、サービス間での相互作用 によって矛盾した現象(サービス競合と呼ぶ)が起こることがある。もし、このようなサービス競合を含んだままサービスを提供すると、利用者が予期しないような現象を引き起こしてしまうことがある。つまりサービス競合は、サービスを迅速に開発・提供する上で重要な障害となっており、その検出手法を確立することはきわめて重要な課題である。 サービス競合に関する研究動向としては、「フィチャーインタラクションに関する国際ワークショップ」[1]がすでに3度開催されている。昨年10月にはATRにて開催され68名(うち海外から11カ国32名)の参加があった。ワークショップにおいては、問題意識の共有化を図るとともに、最新の研究成果が発表され、活発な討論を行うなど国際的にも重要な課題であるとの認識が広まっている。 一般に、通信サービスはサービスの内容を仕様として記述し、そしてその仕様を実現したソフトウェアを開発することで提供される。サービス競合はこのようなソフトウェア開発過程の様々な場面で出現することが考えられるが、開発工数を考慮すればなるべく上流工程で検出してしまうことが望ましい。そこで我々は、開発過程の最上流工程である仕様を記述する段階を対象としたサービス競合検出手法の研究を行ってきた[2]。 以降第2章では、まず我々が行ってきた状態遷移モデルによる仕様記述手法 [3]を説明する。第3章では、第2章で説明する手法により記述した仕様を対象としたサービス競合検出手法のひとつとして、ふたつの状態遷移が同時に起こること(状態遷移の非決定性)を検出する手法[4]と、その手法を実現した試作システムによるサービス競合の検出実験結果について述べる。第4章では第3章で説明する検出手法の拡張案を提案し、いくつかの適用例について述べる[5]。第5章では、サービス競合の検出に限らず、状態遷移モデルによる仕様の検証には不可欠な実際に起こりえる状態を把握するための手法について評価する。