TR-C-0130 :1996.3.1

榎木浩

交換機能概念モデルとその応用

Abstract:通信サービスの多様化に伴い,ユーザニーズの早期提供やそのための効率的なサービスの開発が望まれており,そのためには通信サービス開発の上流工程である要求記述の段階で正しいサービス仕様を確定させることが重要な課題の一つである.正しいという言葉には, サービス要求側の「所望のサービスを作ること(building the right service)」という意味 と,サービス開発側の「間違いのないサービスを作ること(building the service right)」という意味がある. これらの課題への取り組みとして,対象とするシステムに関する共通的な語彙や機能を明示的に記述していこうという研究が活発になってきている例えば,人工知能ではオントロジー,ソフトウェア工学ではドメインモデルなどの研究であるまた要求工学の観点からは,オントロジーのような共通のベースとなるプリミティブを準備しておくことで,仕様が明確に記述できない要求記述のようなもやもやとした問題を対象として,早期の段階で不具合を検出し,その結果をフィードバックできる仕組みを確立することを狙っている. そこで我々は,通信サービスの開発プロセスにオントロジーのような概念体系を導入することについての研究を行なっている.概念体系を要求記述,要求理解,設計,検証,製造などの各プロセスヘ応用し,その有用性,有効性を検証するものである. 本稿では,通信サービス仕様記述の段階での問題解決を図るために,通信サービスに関する概念体系を構築し,概念体系を具体的な問題解決へ適用する手法とその評価について述べる.概念体系は,通信サービスを実現する通信システムでの接続に関する交換機能に着目し,機能をいくつかの基準に基づいて階層的な概念として分類・体系化したものであるまた概念体系の適用では,概念体系により要求記述の用語の意味を認識し,その認識結果を用いることにより,要求仕様での記述支援,仕様間の競合,要求の設計仕様への自動的詳細化など,いくつかの問題を解決することができる. 以下,2節では概念体系に関する研究例を述べ,3節では概念体系の通信サービス開発への導入について考察する.4節で概念体系の構築方法とその内容を示し,5節では概念体系の適用結果を示す.6節では,概念体系の評価と課題を述べる.