TR-C-0115 :1994.4.13

猪口聖司

自然言語による通信サービス要求記述からSTRへの変換

Abstract:社会の高度情報化が進むにつれて、通信サービスに対する要求が複雑、多様化している。 それらの様々な要求に対して、その要求の的確な把握と迅速なサービス提供が重要となって いる。特に、早期段階での要求の獲得・分析はその後のプログラム開発の効率化に非常に有効である。要求が明確でないまま開発がなされると要求者と開発者間の意志疎通の欠如、誤解等により、実際に開発したものが実は要求者の要求を満たしていないといった根本的な問題が発生し、開発期間の延滞、開発コストの増加といった問題につながる。 通信サービスの仕様の要求記述に関し、曖昧性の排除、厳密性の重視の観点からは形式 記述言語(SDL[1]、LOTOS[2]など)に関する研究が行われている。しかし、それら 多くの形式言語では支援環境も開発されてはいるが、サービスを記述するには仕様記述者 は、結局は細部の仕様まで明示的に記述しなくてはならず、そのためには通信サービス内部 に関しての深い知識が必要となる。したがって、通信サービスに関して専門的な知識をもた ない人(非専門家)のサービス要求から、そのような形式的な記述までのギャップは大きな ものとなっている。そこで、通信サービス仕様をよりユーザの立場で捉え通信システム内部 制御には関知せず、外部からの動作と外部で認識できる対象物(端末、人)の状態の遷移で サービスを記述できる形式言語としてSTRが開発されている[3]。STRに対しては、仕 様検証に関する研究[4]や自動プログラム生成に関する研究[5]も行われている。 非専門家が通信サービスに対する要求をそのまま表現するには、自分の言葉である自然 言語(日本語)で直接記述するのが望ましいのは明らかである。その自然言語による要求 記述からSTRを生成することは、通信サービスの自動プログラミングの上流工程として大 いに有効である。しかし、自然言語の使用は、形式言語への変換などのような機械処理の観 点からみると、記述洩れや曖昧性などの自然言語処理の一般的な問題や、通信サービス仕様 の記述という観点からは、通信サービスとしては本質的に同じことを表現するのに、記述者 の視点の違いで表現も違ってくるといった問題(例えば、『利用者が、端末の受話器をあげ る』と『端末が(サービス主体に)オフフック信号を送る』という両者の表現は統語的には 全く違うことを表しているが、通信サービス概念に関しては同じことを表現している。)も 生じる。また、自然言語の表現の自由度が高いため自分の意図を的確に表現できないといった問題も挙げられる。 そこで、本システムでは、まず要求記述者に表現の自由度をなるべく損なうことなく、要求が記述しやすい適切な記述ガイドラインを提示し、それにそって自然言語で要求記述をおこなわせる。さらに、記述された内容について曖昧な点や、記述内容が通信サービス概念として一意に定まらないものなどは、記述者への問い合わせ(対話)により解決し、STRへの変換を行うアプローチをとった。(図1) 本報告では、第2節で日本語による記述手法(ガイドライン)について述べ、第3節ではその記述手法で記述された要求仕様文の統語的な意味解析について、第4節では意味解析結果からの通信サービス概念の抽出とSTRへの変換、第5節では、まとめと今後の課題を述べる。