TR-C-0101 :1994.8.24

中村光宏

ドメインモデルを用いた通信サービス仕様生成手法

Abstract:従来、仕様記述に関する多くの研究では、ユーザが要求を計算機処理可能な形式言語で明確に記述することを前提としている。その場合、形式言語で記述されたユーザ要求から対象システムのソフトウェアを設計する過程を計算機支援により自動化することが課題となる。支援手法として、記述内容に関し一定の論理基準に基づく検証を行ったり、記述した仕様の動作をわかりやすく表示するプロトタイピング手法が提案されている。 これに対し、そもそもユーザから要求を抽出することが困難であるという認識に立ち、 要求仕様を獲得することを支援する要求理解(Requirements engineering)の重要性が 指摘されている。 一方、ソフトウェア工学の分野では、専門家の知識をドメインモデルとして構造化し、それを用いて要求から対象システムのソフトウェアを生成することを支援する試みが研 究されている。そのためのドメインモデルとして必要な知識の構造化や記述方法に関するさまざまな試みが報告されている。しかし、一般にモデルができたからといって、即、動くシステムができたことにならないという問題点がある。 我々は非専門家を対象とした通信サービス仕様の作成支援をめざして研究を行っている。我々の手法の基本的なコンセプトは、既存のサービス仕様をドメインモデルに基づいて抽象化して事例ベースに蓄積し、「ある状態を起点として、指定した目的状態に遷移する仕様がほしい」といった部分的な情報で入力された要求に対し、要求された2状態の属性値を致させる操作の組み合わせを抽出することによって、状態遷移形式の仕様を生成しようというものである。ドメインモデルは、①ドメイン固有の概念を表現し、結果的にモデル空間を規定する属性情報、②状態遷移の抽象表現である属性に対する操作方法、③状態および遷移に関する制約条件、④準正常動作生成のための必須条件の4種類の情報から構成される。非専門家が要求表現で使用する具体的な用語とモデル上の抽象表現との相互変換のために辞書を用意する。図1に我々が検討している仕様生成システムの基本構成を示す。