伴野明,鉄谷信二,岸野文郎
視線検出装置とマウスを併用する指示入力法の評価
Abstract:最近、画像処理技術の進歩により、カメラ画像から実時間で眼の特徴点を抽出し、視線
を検出する装置が開発されつつある。これらの装置は、頭部に特殊な機器を装着することなく、また、
頭部の動きを許容してディスプレィ上の注視点を求めることができる点で従来のアイカメラとは異なる。
著者らも先に、顔上の三点と瞳孔を特徴点とし、ステレオ画像計測で求めた顔の位置と方向、および、
瞳孔の位置から視線を求める手法を開発し、1~2度程度の検出精度が得られることを示した。
未だ、利用者の高速な動きに対しては追随性が悪い、検出範囲が十分に広くないなどの問題はあるものの、
マン・マシンインタフェースでの入力装置として期待できる。
視線検出を入力に利用する方法は様々あるが、インタフェースでの基本機能である指示入力、つまり、
ディスプレィ画面上の文字、アイコン、メニューなどをマウスで指示する従来の入力方法の代替えとして、または、
この補助として利用することができれば効果的である。
ところで、目標にカーソルを合わせる作業において、仮に視線の検出精度が十分に高ければ、目標を注視しながら、
ボタン操作等によってカーソルを1回で目標内に移動することができる。しかし、実際には、
視線検出装置には誤差があり、また、視線自体も注視点の回りに揺らぐ性質(固視微動)があるため、
目標が小さくなった場合には、1回のボタン操作でカーソルを目標に合わせることは困難である。
そこで、著者等は先に、検出された注視点位置にカーソルを発生させ、このときカーソルが目標から外れた場合には、
マウス操作によりカーソルを目標内に移動修正する方法、即ち、視線とマウスを併用する指示入力法を提案した。
マウスのみを用いる従来の方法に比べ指示入力時間や操作のし易さに大きな改善が見られると期待して、
この方法を用いた簡単な指示入力実験を行ったが、指示時間では大きな差は見られなかった。この原因としては、
i)実際の画面に通常存在するウインドゥや文字などを省略し、単一色の背景中に指標やカーソルを表示すると言う
特殊なケースで実験したこと、
ii)指標提示条件に関して、指標が比較的小さく、また、指標とカーソルの距離が短いケースが多く、本手
法の効果が現れ難い条件であったこと、
iii)マウスのみの操作において、実験開始時にカーソルが常に画面の中央に表示されるという条件であったため、
カーソルの探索時間が短くマウス単体の操作の方に有利に働いたこと、などが考えられる。
そこで、本論文では、実際のワークステーションで表示画面を指示する場合にできるだけ近い条件で、
指示入力実験を行い、本手法の有効性を実用に合った評価方法で分析した。
2.では、先ず、本手法の比較として、マウス単体を用いたの指示入力法の評価について示す。
提示される指標の背景が単一色の場合とウインドゥ、文字、図形などが表示されている場合との比較、
カーソルがランダムな位置に現れる場合とあらかじめ決まった位置に現れる場合の比較などについて述べる。
3.では、視線とマウスを併用する指示入力実験について述べる。使用する視線検出方式とその精度について触れた後、
指示入力時間、カーソル操作の容易性などについて、マウス単体の場合と比較する。また、4.では視線検出誤差を
変化させた場合の指示入力特性についてシミュレーション実験を行い、指標の大きさと指示時間の関係などに
ついて考察する。