TR-AC-0054 :2001.3.15

大谷直毅

半導体超格子を用いる光電流発振素子

Abstract:本報告においては、光励起で動作するアンドープGaAs/AlAs超格子の光電流連続発 振に関する新しい知見が解説されている。これらの知見は世界的に見ても非常に新し い発見であり、半導体超格子内の電子輸送機構に対し物理学上の貢献をなし、なおか つ単体素子における光-電磁波変換を可能とするなど、新たな応用の可能性を示唆す るものである。 ここで述べる光電流連続発振はガン効果とは異なり不安定電界ドメインによって生 じる現象である。不安定電界ドメインが電流発振を示す事実は数年前に発見された。そ こではシリコンをドープした超格子ダイオード素子を用いた観測実験が行なわれた。し かし、光励起アンドープ超格子においては減衰を伴う発振しか観測されておらず、同 時に理論研究でも連続発振は不可能という回答が示されていた。 しかし本研究によって、超格子中のキャリア輸送経路にΓ-X散乱が寄与する場合に おいて、アンドープ素子でも光電流連続発振が可能であることを示した。 アンドープ素子の発振メカニズムの特徴を知るための基礎的検討によって、その複 雑で多様な振舞いを知ることができた。電流発振のキャリア密度および温度依存性に 関する検討では、温度上昇により素子が無発振状態から連続発振状態に遷移するとい うたいへんユニークな現象を発見した。またキャリア密度および温度を変数として発 振条件を視覚化するフェーズダイアグラムを実験から得ており、発振の境界条件につ いて検討を行なっている。 また直流電圧に交流電圧を重畳して変調すると発振スペクトルにカオスが見られる。 このとき交流電圧の振幅を変数として発振スペクトルに見られる分岐パターンについ て検討している。