TR-AC-0030 :1999.3.31

坂田成司

原子間力顕微鏡による超微細構造の作製

Abstract:電子デバイスあるいは光デバイスの作製において、その特性向上を図るためや、あるいはより新しい物理現象をデバイスの中で実現するために、超微細加工の探求が続けられている。従来超微細加工プロセスといえば電子ビーム露光が主流であったが、近年はより微細な加工が可能な走査型トンネル顕微鏡(STM: Scanning Tunneling Microscope)や原子間力顕微鏡(AFM: Atomic Force Microscope)を用いた超微細加工プロセスの研究が盛んである。 これまで半導体産業を支えてきたパターン形成方法は光露光法であったが、使用する光源の波長による限界から、0.1 μm以下のパターンを形成することは不可能であることが予測される。これを解決するには、光より短い波長の電子ビームを使用すればよい。しかし、電子ビームを照射して感光させるレジストの分解能がパターンの最小寸法を規定し、有機レジストを用いた場合パターンサイズは数十nmにとどまる。 これらの光,電子ビームと全く異なった手法で、かつより小さい微細パターンの形成が可能となる方法が、STMあるいはAFMを用いた超微細加工方法である。 STMはIBMのBinnigらによって1981年に開発された。STMは試料表面とその上を走査する探針,および探針をX,Y,Z方向に駆動するピエゾ素子からなっている。探針の先端をZ方向のピエゾ素子を伸ばして試料表面から数十Å以下の距離に近づけると、両者の間にトンネル電流が流れる。フィードバック回路によりトンネル電流を一定に保持しながら探針先端を試料方面の凹凸に沿って走査すると、針の変位から試料表面の形状が原子オーダーの分解能で観測できる。 AFMは、STMの開発に引き続き、類似の概念の走査プローブ顕微鏡(SPM: Scanning Probe Microscope)として考案された。STMは探針先端のトンネル電流を検知するのに対し、AFMはカンチレバー先端で原子間力を検知し、カンチレバーの変異をレーザー光の反射光で検知する点が異なる。よって、トンネル電流が流れないためSTMでは表面形状の観察が不可能な絶縁物でも、AFMでは観察可能である。 これら本来は表面観察に用いるSTM/AFMを、超微細構造作製に利用する研究が近年行われている。STMの探針あるいはAFMのカンチレバーを、化学反応を生じさせる超微細な電極として用い、ナノスケールの微小酸化細線を形成することが出来る。金属薄膜上に適用した例として、これまでチタン,クロム,アルミニウム,ニオブなどで報告がある。中でもチタンは、STM/AFMナノ酸化プロセスに最適な材料と考えられてきた。例えば松本らは、SiO2形成済みのSi基板上にチタンあるいはニオブを蒸着し、 STM/AFMナノ酸化プロセスにより10~20nm幅の酸化細線を形成し、これを用いて単電子トランジスタを作製した。また、これら金属薄膜以外の微細加工としては、Si基板上やGaAs基板上への適用が報告されている。 今回我々は、従来報告がなかったバナジウム金属薄膜に、AFMを用いて微細加工を行った。同条件でチタン金属薄膜に形成した場合と比較したところ、バナジウムはより微細な加工が可能であるという結果を得た。本報告では、このAFMによるバナジウム金属への超微細構造の作製について述べる。