土居義晴
時空間信号処理に基づく
高感度・高耐干渉受信システム
-シングルビーム形成型アダプティブアレーと最ゆう系列推定の結合方式-
Abstract:次世代のディジタル移動通信システムでは、2Mbps程度の通信速度の実現を目指している。
屋外の電波伝搬環境で、この程度の通信速度で電波を送信すると、送信される信号のシンボル
長に対して、1シンボル以上の遅延波が発生する。1シンボル以上の遅延波は、符号間干渉
(Inter Symbol Interference:ISI)として受信信号の波形歪みを起こし、伝送品質を著しく劣化さ
せる。TDMAシステムにおける遅延波対策としては、ISIを等化する適応等化器[1]-[3]と、ISIを
除去するアダプティブアレーアンテナ[4],[5]が提案されている。
一方、伝送速度の高速化以外の次世代のディジタル移動通信システムの重要な課題として
は、通信システムの大容量化を挙げることが出来る。現在のTDMAセルラーシステムは、移動端
末同士や基地局同士が互いに干渉しないようにするために、同じ周波数のチャネルを使用する
セルの距離を十分に離して配置している。この様なTDMAセルラーシステムの加入者容量を増
やす方法としては、基地局にアダプティブアレーを設置するか、基地局と移動端末の両方に干
渉キャンセラを搭載し、同一チャネル干渉(Co-Channel Interference:CCI)を除去することによ
り、同一チャネルを使用するセルの距離を縮め、同一チャネルの場所的な利用効率を向上させ
る方法[6]と、同じセル内で2つの移動端末に同一チャネルを使用させることにより、周波数利用
効率を倍増するPDMA(Path Division Multiple Access)方式[7]-[9]が提案されている。
以上のような、ディジタル移動通信の高速化と大容量化を同時に実現するために必要なCCI
除去とISI等化あるは除去の両方が出来る技術は、干渉除去能力を持った等化器[2],[3]と、ア
ダプティブアレー[4],[5]がある。干渉除去能力を持った等化器は等化(時間信号処理)を行な
うため、パスダイバーシチ利得が得られるが多数の干渉波が有る場合や遅延波の遅延時間の
増加にともない信号処理量が膨大になる。アダプティブアレーはヌルステアリング(空間信号処
理)を行なうので優れた干渉除去能力を持つ一方でパスダイバーシチ利得は得られない。そこ
で、本稿では、アダプティブアレーと等化器を組み合わせ、少ない信号処理量で、優れた干渉除
去能力を持ち、パスダイバーシチ利得が得られる時空間信号処理干渉キャンセラを提案し、計
算機シミュレーションでその特徴を明らかにする。そして、提案した時空間信号処理干渉キャン
セラをTDMAシステムの基地局に適用し、下り回線の特性改善が行えることも示す。