河野淳,栗田知好,本多清志
母音における音声と口唇形状の視聴覚に関する研究
(その1.母音口形連続体における視知覚)
Abstract:発話における口唇の形状変化は、音声の生成過程と視聴覚統合による音声知覚との関
連性を理解するうえで重要な研究対象を提供している。聴覚障害者や騒音雑音下におけ
る音声知覚においては、聴覚を通しての音声の音響的な情報を十分に伝達することがで
きないので、主に視覚を通して言語情報を補足的にあるいは代行的に伝達することが必
要となる。これらの補助手段は、情報の伝達に関してはそれ自体では不完全なものであ
るが、決して無視できるほど小さいものでもない。本研究は、視覚による語音認知能を
検討するための口唇モデルの作成および視覚による語音認知能検査の予備的研究として、
基準となる母音の口形および口形連続体を作成し、健聴者75名を対象にそれぞれの知覚
検査を行ない、母音口形の視覚による知覚能について検討した。
20歳代男性3名の母音発声時のビデオ画面より各母音の口唇の外形の輪郭線を抽出し、
7箇所の測定部位を定め、各部位の平均より基準となる5母音の口形を作成した。さら
に、口形の上下幅、左右幅によりG1:/a/-/e/-/i/、G2:/a/-/o/-/u/、G3:/e/-/o/、G4:/i/-/u/
のグループごとに、各基準母音間に5個の連続口形の作成および各基準母音の外側に2
個ずつの連続口形を作成し、それぞれの口形を二者択一および五者択一で視覚により知
覚させた。二者択一、五者択一ともに同様の傾向が見られたが、/a/、/u/、/i/では高い
範疇知覚がなされ、/e/、/o/において範疇知覚は不完全であった。つまり、口形のみの情報
でも、/i/においては約90%、/a/、/u/においては約60%以上、/e/で約50%が知覚可能であ
った。/u/では/o/への、/a/では/o/、/e/への、/e/では/a/への誤知覚が多くみられた。/o/では、
/u/、/a/、/e/への誤知覚が約20%みられ、口形のみの情報では正しい知覚は困難であった。
しかし全般的に見て、基準口形の作成の意義、母音口形における視知覚の有効性が示唆
された。