TR-A-0091 :1990.9.28

Michiko SHIMOMURA, Kazuhiko YOKOSAWA

The proofreading of Japanese sentences: visual, phonological, and semantic processing

Abstract:文章校正は、視覚情報処理能力や意味情報処理能力などを駆使し て行われ、そのパフォーマンスには、高次理解過程、知識、記憶な ど様々な要因が影響していると考えられる。本報告では、その中で 日本語特有の漢字の処理に関わる視覚的要因、音韻的要因、意味的 要因の3つをとりあげた。本報告は、Part1、Part2の2つに分か れている。Part1は、視覚的要因について検討した2つの実験をま とめた論文である。Part2は、音韻的要因、意味的要因をそれぞれ 調べた2つの実験のShort Reportである。 Part1では、文章校正時の視覚的処理、特に(1)人はどの様な 単位で誤字を探しているか、(2)どの様な特徴を利用して誤字を 探しているか、という2つの問題に答えるために実験を行った。第 1の問題を調べるためには、継時分割提示法を用いて、刺激の提示 単位を操作した。すなわち、文章を1文字、単語、文節、全文の4 つの条件で継時提示した。第2の問題を調べるためには、誤字と正 字の形態類似性を操作した。 実験の結果、2つの問題に対してそれぞれ以下のような答えが得られた。 (1)単語・文節単位で提示したとき、1文字単位で提示したとき よりも、誤字検出が促進された。また、通常の読文時のような読み 方で誤字を探す被験者に関しては、文章単位で提示したとき、単語 ・文節単位で提示したときに比べて、誤字検出が抑制された。この 結果は、課題に理解テストを加えて被験者の読み方を統制すること によって、より明らかになった。さらに、検出時間の分析から単語、 文節程度の単位であれば、並列処理が行われていることが示された。 これらの結果は、単語が読文時の処理ユニットであるという従来の 理論(Unitization hypothesis, Healy et al.)と一致し、人は文 章校正の際にも、単語や文節といった1文字よりも大きな単位の情 報を用いて文章を読んでおり、そのことが、日常経験する文章校正 の難しさの原因でもあると考えられる。 (2)類似誤字の検出率は非類似誤字に比べて25%も低く、人は誤 字検出時にも、必ずしも文字を詳細に処理しているのではなく、概 形的な特徴を利用していることが明らかになった。 Part2では、実験1で音韻的要因について、実験2で意味的要因 について調べた実験の結果を報告する。音韻的要因を調べるために、 正字と誤字の発音の同一性を、意味的要因を調べるためには、誤字 が単語中にあるか非単語中にあるかという語彙性を操作した。実験 の結果、発音、語彙性ともに、検出率にはほとんど影響を及ぼさな いことがわかった。その反面、両者とも検出時間には大きな影響を 及ぼし、正字と発音が異なる誤字よりも同じ誤字が、また単語中の 誤字よりも非単語中の誤字の方が速く検出されることが明らかにな った。 一連の実験より、視覚的要因は誤字検出の正確さに、音韻的要因 と意味的要因は誤字検出の速さに影響することがわかった。