緒形昌美
運動視と両眼立体視
~統合モデルの構築をめざして~
Abstract:3次元世界の投影としてテレビカメラ等によって得られた2次元画像には、外
界に関するさまざまな手がかりが含まれているが、中でも運動や両眼視差は情景
のセグメンテーションや3次元形状の復元など、より高次の処理を行うために用
いることができ、それらを検出する方法はコンピュータ・ビジョンの中心的課題
としてさかんに研究されてきた。その結果いくつかの優れた手法が提案されたが、
それらはあくまでもある制限された環境においてのみ正しく動作し得るもので、
自然環境の中であらゆる場面に対処できる柔軟な手法はいまだ確立されていない。
一方、網膜像に含まれる運動や両眼視差は、我々人間にとっても外界を把握す
るための重要な手がかりである。実際、我々の視覚系はあらゆる場面においてこ
れらを実に巧妙に計算しており、その能力はコンピュータ・ビジョンのレベルを
遥かに凌いでいる。従って、人間の視覚メカニズムを検討し計算モデルを構築す
ることは、今日コンピュータ・ビジョン研究が抱えている問題を解決するための
1つの有効なアプローチと考えられる。そこで本報告書では、人間の視知覚特性
を考慮した運動検出、及び両眼視差検出の計算モデルを提案する。
また、人間の視覚系が優れた情報処理能力を実現している理由の1つとして、
複数の手がかり間の相互作用をうまく利用していることが考えられる。通常、す
べての手がかりは互いに関係をもっているため、単一の手がかりが曖昧であった
り精度が低くても、複数の手がかりの整合をとることによって個々の信頼性を改
善することが可能である。しかし、従来の研究は各手がかりを独立に検出するこ
とを目的としており、各手がかり間の相互作用はほとんど考慮されていない。こ
こでは運動視と両眼立体視の統合モデルの検討も行う。
2.では、心理実験によって得られた結果をもとに、フィルタリング処理とマ
ッチング処理を組み合わせた2段階の運動検出モデルを提案する。
3.では、運動検出において、時間的積分による推定精度の向上と速度変化に
対する追従性を両立させるために、検出モデルヘのカルマン・フィルタの導入を
検討する。
4.では、両眼視差検出と運動検出の類似性に着目し、従来行われてきた特徴
点マッチングとは異なる信号処理的な視差検出法を提案する。
5.では生体モデルとしての可能性を考慮し、また計算速度の高速化を目的に、
4.で述べた方法を改良する。
6.では、運動検出と両眼視差検出の相互作用について検討する。