TR-A-0083 :1990.4.27

塩入諭

3次元知覚における手がかり間の相互作用

Abstract:本研究では、両眼奥行き情報と単眼奥行き情報の整合性が奥行き知覚に及ぼす影響を系統的に調べるために、両眼視差と、陰影を与える輝度分布(陰影輝度分布)あるいは奥行き情報をもつ輪郭線が存在するランダムドットステレオグラムを開発した。 それらの刺激を用い、手がかり間の奥行き情報の整合性の関数として、被験者の奥行き知覚の特性の変化を測定し、主要な結果として次の2点を得た。1)単眼の奥行き情報が両眼視差と競合するときでも、被験者は両眼視差の持つ奥行きを知覚する傾向が強い。その場合、陰影輝度分布あるいは輪郭線の形状は、奥行きに係わる情報としては知覚されず、それぞれ白黒の縞あるいは図形自体の形状として、つまり刺激自体の特性として理解される(詳細は2.2項及び3.2項)。2)しかし、両眼立体視が形成されるのに要する時間を測定すると、単眼性の奥行き情報が両眼視差のそれと一致する条件においては、不一致の条件に比べ短時間である。この結果は、単眼性の奥行きとして、陰影輝度分布を持つランダムドットステレオグラムにおいても、輪郭線の形状を持つランダムドットステレオグラムにおいても同様であった。 実験1で示された陰影輝度分布の両眼立体視形成への効果に関して、それが陰影による奥行きの知覚の効果であることを確証するために、2つの実験を追加した。実験2は、陰影輝度分布によりもたらされる奥行きの効果と、やはりその輝度分布により縞模様が刺激上にもたらされる効果との分離を目的とし、陰影輝度分布の代わりに、それにより陰影が知覚されない等輝度の色度分布を用いた。その結果、色度分布に対しては、陰影輝度分布が両眼立体視に与えるような効果は得られず、陰影輝度分布の両眼立体視への影響は、陰影による奥行きに起因することが示唆された。また実験3では、輻較眼球運動の影響が全く同一の条件下で陰影輝度分布の奥行き情報の両眼立体視への影響を測定し、陰影輝度分布の両眼立体視形成時間への効果が、輻較眼球運動に係わるもののみでは説明しえないことを示した。 一方、実験4で得られた輪郭線の形状の両眼立体視形成への影響に対し、それが、輝度差でできた輪郭線特有の効果であるか否かを調べることを目的とし、実験5が行なわれた。 実験5では、輝度差がなくテクスチャーの差のみでできた輪郭線を用いたが、輝度差でできた輪郭線の条件と同様の結果を得たことから、輪郭線の形状の両眼立体視形成への効果は、エッヂの持つ輝度差によるのではなく、形状の知覚にかかわる効果であることが支持された。