HIDEO FUJII, TOSHIO INUI
CGを用いた心理実験に基づく
方向評定モデル
Abstract:空間認知に関する研究は、古くから行われてきたが、Tolmanはネズミを用いた
実験からネズミは単に道順を記憶しているのではなく「頭の中に地図」を形成し
ていると考え、このような知識を「認知地図(Cognitive map)」と呼んだ。それ以
後、空間に関する知識は、一般に認知地図と呼ばれ、地理学、建築学、心理学、
認知科学など様々な分野で研究されている。
まず、空間表象に関する研究がある。たとえば、道路の交角が90度に近いもの
として記憶されることや経路上にある交差点の数が多い程経路を長く知覚する
ことなど、様々な空間表象の歪みが実験的に調べられてきた。その結果、我々
の記憶している空間は現実の正確な縮尺物ではなく、「一定の法則に基づいて単
純化されたもの」と考えられている。次に、認知地図の形成過程に関する研究も
多い。これらの研究は、見知らぬ場所を探索させた後、スケッチを描かせたり方
向評定を行わせたりすることで空間把握過程の分析を行っている。その結果、空
間情報の獲得に一定の傾向があることや方略に2つのタイプが存在することなどが報告されている。また、幼児の発達過程の研究から空間情報の体制化過
程に一定の傾向があることなども述べられている。さらに、我々の空間内での
行動が認知地図によってどのように規定されているかを調べる研究も多い。たと
えば、全体的な地図を把握するにつれて、1つ1つの状況に依存した行動から、
行動全体の目標を考え近道などを選べるようになることが報告されている。
このように、認知地図に関しては様々な知見が得られているが、従来の手法で
は物理的な制約、要因の統制の難しさ等からいずれも現象の記述に留まっていた。
そこで、我々は、統制された環境をコンピュータ・グラフィック(CG)を用い
て生成し空間認知特性の定量的分析を試みた。本論文は、我々が構築した実験シ
ステムの概要と空間認知モデルの構築を目的に行った空間探索実験と距離評定実
験について述べたものである。