横澤一彦
日本語の視覚的処理単位
-単語認識過程における諸現象-
Abstract:文字認識過程の研究は、様々なアプローチで進められている。その中で
多くを占めるのは、文字単体を対象とする認識過程研究である。しかしなが
ら、それは我々が普段あまり経験しない状況での特性を調べてきたように思
われる。なぜなら、読書等大抵の場合において我々は文脈の中で文字を認識
している。このとき、人間は文字を1文字ずつ順次認識しているわけではな
く、何らかの認識単位を並列処理していると考えられる。このことは読書時
の眼球運動の跳躍的軌跡からも推測される。単語が分かち書きされる英語
などでは、その認識単位が単語であることが示唆される様々な現象が報告さ
れている。多くの場合、そのような視覚的処理単位の中で文字認識が行わ
れるのである。
視覚的処理単位における特異な現象が、分かち書きされないが漢字、平仮
名、片仮名と言った多字種を使い分ける日本語の場合にも存在するのかどう
かを様々な角度から調べたので報告する。以下の章では、単語優位効果、単
語優先効果、視覚探索、文章校正などの課題に分けて分析した。
2.では、単語優位効果について調べた。単語優位効果とは、単語中の文
字が最も正確に認識できるという現象で、英単語を用いた実験で確認されて
いる。この単語優位効果について、2漢字単語を用いて分析した。
3.では、単語優先効果について調べた。単語優先効果とは、単語全体が
単語中の文字より速く認識できるという現象で、いわゆる部分と全体の問題
を扱うことになる。
4.では、視覚探索特性について調べた。文章中から特定の文字や単語を
探索するときの効率的な処理単位などを分析した。特に、ここでも単語優位
性について分析することになる。
5.では、文章校正の特性について調べた。文章校正も視覚探索の1つで
あるが、あらかじめ目標を指示されていない点が4.の場合と異なる。
ここでは、文章の意味理解がある程度必要な状況での視覚探索特性について分析
する。