TR-A-0064 :1989.12.7

下村満子,横澤一彦

Identification of Kanji and Kana characters within Japanese words

Abstract:日本語の単語認知における全体的処理と部分的処理との関係を調 べるために、継時照合課題を用いて3つの実験を行った。継時照合 課題とは、継時的に提示される2つの刺激が同じかどうかを判断す るものである。英単語では、この照合課題を用いた実験からWord Priority effect(Sloboda,1977)、または、Whole-word advantage (Marmurek,1986)と呼ばれる現象が報告されている。これは、実験 課題として、2つの単語全体が同じかどうかを判断する全体照合と、 単語内の1文字が同じかどうかを判断する部分照合の2種類を設け たとき、部分照合よりも全体照合の方が比較する文字数は多いにも かかわらず、反応時間は全体照合の方が短いというものである。そ して、単語認知においては、必ず単語全体の処理がまず最初に行わ れ、単語を構成する文字の処理は必要があれば付加的に行われると 解釈されている(Johnson,1981)。 実験1では、2文字の漢字単語について調べた。実験の結果、全 体照合と部分照合では、平均反応時間に統計的有意差はなく、英単 語で報告されているようなWhole-word advantageは見られなかった。 実験2では、漢字単語と比較するために、漢字非単語を用いた。そ の結果、部分照合の方が全体照合よりも75msec速く行われ、この差 は統計的に有意であった。実験1、2の結果から、非単語中の漢字 はシリアルに処理されるが、単語中の漢字は、パラレルに処理され ていると考えられる。実験3では、4文字の仮名単語、非単語を用 いた。その結果、実験1と同様、Whole-word advantageは見られな かった。一連の実験で、Whole-word advantageが見られなかったの は、漢字と仮名がアルファベット文字よりも大きな認知単位を形成 していることによると思われる。 また実験1、2において、比較される刺激間の形態類似性(形態 類似刺激対例:開店-閉店、温築-湿築)は、単語、非単語の両方 に影響を及ぼしたが、刺激の音韻(同音韻刺激対例:照明-証明、 局宙-曲宙)は単語にのみ影響した。このことから、漢字単語の照 合は視覚的符号、音韻的符号、意味的符号を用いて行われ、漢字非 単語の照合は視覚的符号を用いて行われていると考えられる。