TR-A-0049 :1989.4.6

山田玲子,東倉洋一

日本人とアメリカ人における 英語/r, l, w/音知覚の手掛かり

Abstract:日本語には、英語(ここではアメリカ英語)にある/r/、/l/という音素が存在しない。 従って、日本人は英語を学習する際に、これらの音の聴き取り、調音を共に苦手としている。 この日本人の英語/r//l/音知覚は、言語環境が知覚に及ぼす影響や、聴く能力と調音能力の関係を調べる上でよい例題となるため、多くの研究報告がある。それらは、大別すると自然音声を刺激音としたものと、合成音を刺激音としたものに分けることができる。 自然音声を用いた実験では、主として単語の中での位置、前後環境と聴き分けの関係を調べている。一方、合成音を用いる研究では、刺激音の音響的手掛かりを自由に設定することができるため、知覚様式に関する詳細な検討が可能である。 そこで、合成音を用いた従来の研究の特徴と問題点を次にまとめてみよう。 (1)〔r〕と〔l〕を区別する主な音響的特徴には、F2,F3周波数、遷移時間等が報告されている。 しかし、どの特徴に着目するかは、研究者によって異なっている。 英語を母国語とする被験者を用いた実験では、これらの音響的特徴と知覚との関係はかなり明らかにされている。しかし、日本人が/r/と/l/を聴き分ける際にどの手掛かりに着目するかという点に関する系統だった検討は不十分である。 (2)従来の研究における知覚実験では、〔r〕と〔l〕を区別する音響的手掛かりのうちの一つまたは複数を変化させた〔r-l〕刺激連続体上の各刺激に対し、/r/か/l/かを強制判断させている。しかし、それらの刺激連続体上に/r/と/l/以外の音素は知覚されないのかという問題が生じる。 以上(1)(2)の問題点は、従来見落とされる傾向にあったが、異なる言語間での比較を行う場合には実験結果を左右する重要な要因である。 (3)日本人の英語聴取能力は、その経験によって非常に個人差が大きいことは周知の事実である。従って、日本人の/r//l/音知覚の研究では被験者の選び方、特に被験者の英語聴取能力(hearing)には充分な注意を払う必要がある。この時、英米文科の学生か否かといった概念的な点に注目するのではなく、被験者の聴取能力を直接、客観的に測定することが重要である。 (4)知覚実験の刺激として用いる合成音の品質は、明瞭性、自然性ともに高いものが望ましい。 しかし、従来の研究において、とくに、F3周波数のみを変化させた場合にみられるように、 刺激音の音響的特徴を単純化した例では、充分に高い品質の合成音を得ることは難しく、 自然音声に対する知覚との不一致が考えられる。 以上の問題点に関して検討するため、充分に品質の高い合成音を作成し、これを使った知覚実験をアメリカ人と日本人を被験者として行った。その結果を以下の2部に分けて報告する。