藤井秀夫,本郷節之,乾敏郎
認知地図形成過程のモデル化に関する一考察
Abstract:自律走行ロボットの研究が各分野で行われており、実現のためには数多くの問
題を解決しなければならないが、その中にロボットが持つべき「地図」の問題が
ある。通常、ロボットは、地図の作成のために距離センサーやビデオカメラなど
から得た画像を処理して「部分空間」を求め、求めた部分空間を体制化すること
で「全体地図」を把握する。前者の入力画像から部分空間を把握する過程につい
ては、超音波方式・ステレオ画像方式・複数の単眼視画像を用いる方式など様々
な手法が提案されているが(佐藤・築山,1988)、後者の全体地図を形成する
過程に関しては移動した部分空間の単純な繋合わせ程度に留まっている。しかし、
ロボットが、刻々と変化する状況に適応し高度に構造化された空間を移動する場
合、柔軟な構造を持った「全体地図」は不可欠と考えられる。したがって、今後、
全体地図の形成に有効な「空間情報の表現形式」や「部分空間の体制化過程」な
ど「空間の把握に関する研究」は極めて重要になって来る。
一方、心理学では古くから人間の優れた空間認知特性に着目して様々な研究が
行われてきた。これらの研究は、我々は探索により情景や道順を記憶するだけで
なく、バラバラな知識を体制化して「認知地図」が形成されることを示している。
すなわち、認知地図は、「個々の状況」とともに「全体的なイメージ」も把握し
た知識である。したがって、個々の状況での行動を全体的な知識を利用しながら
規定できるため、認知地図は空間の把握に有効な概念と考えられる。しかし、認
知地図に関する研究は、形成要因の抽出や統制の困難さ、定量的な評価の難しさ
などから、現象の記述に留まり工学的応用が難しいのが現状である。
そこで、我々は心理学の研究成果を工学的に応用するため、認知地図形成過程
の定量的な検討を進めつつある。本報告は、これまでに行った研究動向調査とそ
の検討結果について述べるものであり、2章では地図形成過程のシミュレーショ
ンについて述べると共に認知地図をロボットに応用するための問題点について述
べる。3章では心理学で行われてきた人間の空間把握能力について述べると共に
探索により我々は「認知地図」を把握することを述べる。そして、4章では心理
学で提唱されている人間の優れた空間認知特性を工学的に応用するために「認知
地図形成過程のモデル化」について検討をおこない、最後の5章でまとめを行う。