TR-A-0020 :1987.12.7

喜多伸一

テクスチャー識別の心理学的研究の展望

Abstract:本稿の目的は、視知覚の前注意過程について、心理現象と計算論 との関係を探ることである。この目的を、次の三つに分ける。

(1)従来の心理学実験から得られた知見の紹介

(2)心理学実験では十分に取り上げられていない問題点の指摘

(3)心理現象の基礎がなす計算原理の抽出

第1章では、導入として、前注意過程とテクスチャー識別の概念 を説明する。前注意過程とは、工学的には認識対象の切り出しに対 応し、典型的な心理学実験は、テクスチャー識別である。 第2章と第3章では、テクスチャー識別に関する心理学研究を概 観する。基本的な図式として、テクスチャー識別の情報処理過程を 二種類に分けてとらえる。一つは、画像の局所的領域から特徴を抽 出する部分である。いま一つは、得られた局所的情報を大域的情報 に変換する部分である。 第2章では、局所的解析を取り扱う。局所的な領域から得られる ものとして重要なのは、画素の分布の統計量と、テクストンと呼ば れる一群の特徴である。人間の局所的な画像解析能力については、 既にかなりの事がわかっているので、第2章の内容は、目的の(1)に 該当する。 第3章では、局所的情報の大域的情報への変換を取り扱う。具体 的な変換は、空間周波数フィルターと特徴の結合により処理される。 人間の大域的な画像解析能力については、わかっている事は少ない ので、第3章の内容は、目的の(1)及び(2)に該当する。 第4章は、心理現象と計算論との関係を見ていく。内容は目的の (3)に該当する。まず、人間のテクスチャー識別を計算機実験と対応 させ、問題点を探る。次に、それ以前の章の内容に基づいて、心理 現象を計算論的にとらえる際に、今後解決していかねばならない問 題点を、四点に分けて要約する。