TR-A-0015 :1987.10.16

乾敏郎

網膜モデルTAMITの計算機 シミュレーション

Abstract:心理物理学的研究の目的は、刺激に対する被験者の反応を測定することによって視覚システムの内部状態を推測することにある。しかしながら、刺激-反応関係を単にシステム(たとえば視覚系)の特性として記述するのみならずシステムのミクロな生理機構までも推測することは、きわめてむずかしい問題である。70年代に入り、心理物理学的研究は生理学的知見と密接に関連し合いながら急速に進歩した。 アカゲザルは視力、色覚、空間周波数特性のいずれも人間にきわめて類似しているため、心理物理学的データはアカゲザルの単一ニューロンの特性と比較されることが多い。60年代に進歩した視覚神経細胞の受容野特性の研究に影響を受け、70年代 にはさまざまな条件下で、(特に閾値測定法を用いて)人間の受容野特性がしらベられてきた。その結果、心理物理学的に得られたデータとアカゲザルの単一神経細胞の特性が比較的近いことが多かった。 しかし、なぜ心理物理学的方法を用いて得られたデータが単一神経細胞の特性とよく一致するのであろうか。本論文ではこの問題を解決する手がかりを得るため、できる限り神経生理学的データに忠実な神経回路網モデルを構築し、それによって逆に心理物理学データをシミュレートすることを試みた。まず、これまでに報告した心理物理学的データを紹介し(第Ⅰ節)、生理学的データとの関連性を指摘(第Ⅱ節)した上で、それらを説明可能な神経回路網モデル(TAMIT:Total Activity Model for Increment Threshold)を提案する。最後に本モデルから予測される人間の網膜構造について言及する。