超潤滑 −摩擦が無くなる!−



1はじめに
当研究室の計算物理グループは、計算機をフルに利用して複雑な減少を物理的に解明し、その成果を新たに応用することを目指しています。この研究グループは人類の実現したい夢の一つである超潤滑をその考察対象の一つとして研究しています。超潤滑は機械的な運動が入ってくる全ての応用技術と関係し、たとえば当研究所で進めている衛星間光通信の研究における相手衛星を追尾する光アンテナの摺動部、またマイクロ・マシンや宇宙空間でロボットなどの摺動部の摩擦を軽減する問題を解決しようとしています。その実現は技術革新の新たなシーズとして期待されています[1]
 超循環がなぜ生じるかという問いはそのまま摩擦はなぜ発生するかという“古くて新しい問題”でもあります[2]。、摩擦の存在は非常に古くから認められていました。今日の摩擦研究の源は15世紀にレオナルド・ダ・ビンチが行なった最初の科学的な実験まで溯ります。彼は今日アモントン・クーロンの法則と呼ばれる摩擦法則を含め、日常スケールで観測される摩擦について現在の知識のほとんどを得ていました。
 摩擦の期限について当時の人々は、固体の接触部に凹凸がありその引っかかりによって摩擦が現れるという凹凸説を考えていました。またその頃、凹凸説と全く異なる考え方、つまり、接触部でむしろ凝着が生じてそれが原因で摩擦が起こるのではないかという凝着説が考えられていました。しかし、摩擦はそれほど単純ではなく、摩擦、破壊、掘起こしなどさまざまな要因が複合的に絡んで起こる現象です。摩擦は研究者の興味に応じてその‘顔’を多様に変える複雑な現象であり、従来から摩擦は捕ら所のない対象として研究者を悩ませてきました。私達は従来の現象論を越えて、より実体的に摩擦を理解したいという願いから摩擦を原子レベルで調べてきました(図1[3]。この原子レベルでの研究家ら摩擦のない超潤滑が示され、従来の‘先ず摩擦ありき’という常識が破られ新しい可能性が開かれました。

2超潤滑の現れる機構
摩擦がゼロとなるということは、図1で上固体を構成する原子群が下固体を構成する原子群から受ける力が全体で正確に打ち消しあってゼロとなるということです。言い換えれば下固体に対して(人間の手による)わずかな力が作用しても上固体は滑り始めるということです。超潤滑が起こる概念図を図2に示してあります。ここでは簡単に上固体の原子はバネで繋れた球・として表されています。またこれらが下固体からの受ける力を→と←出示してあります。〜〜で表された実線は上固体の各々の(球で示した)原子が下固体から受ける用エネルギーを表していて、球の位置でその微係数が下固体から受ける力となります。→と←の力は反対向きになっていますので、上固体の原子群が全体で受ける力は完全に打ち消し合ってゼロとなっています。つまり、超潤滑が生じています。概念図のように隣り合った力がちょうど同じ大きさで反対向きになっている特殊な場合に限らず、私達は、平坦で清浄な表面であればほとんど全ての現実の固体接触でこの超潤滑条件が満たされることを示しました。また、超潤滑は不純物・格子欠陥があっても安定に現れることなどを計算機シミュレーションによって示しました[4]

3実験的検証
こんなことが実際に起こるのでしょうか?NTT境界領域研究所との共同研究を通して、白雲母の劈開面を使った実験で超潤滑の兆候がでました。しかし、摩擦はゼロにならなかったので、さらに精度のよい超高真空下で摩擦を調べると、タングステンの(001)結晶面とSi(001)結晶面の間の摩擦が確かに測定分解能(10-8N)内でゼロとなることを確認しました。また昨年、リヨン工科大学のグループがMoS2膜の実験で非常に低い摩擦係数(≦0.002)を観測しています[5]。彼らは、この超低摩擦が上で述べた超潤滑の機構にもよるものであると結論しています。それらの他にも、非常に低い摩擦係数がアルミナの粉末で(東工大)、またクオーツ・クリスタルで(Northeastern大)得られています。豊橋技術科学大学、日本工業大学やIBMが同じく低摩擦を得ようとしています。

4応用技術へ
ごく最近ですが超潤滑を柄って超高密度で情報を記録する方法と情報の読み取り機構が提案されました(東工大)[6]。これは光の波長程度の場所に情報を記録する光記録に比べさらに微細な領域に摩擦の有無を刻むことで超高密度の情報集積を達成しようとするものです。また、摩擦を小さく掏ることはオイルレス・ベアリングに繋がる最も直接的な応用です。ミクロン・サイズの超小型の機械であるマイクロ・マシンや分子機械の実現には摩擦を小さくすることが重要な課題となっています[7]。これは機械が小さくなると接触面の割合が相対的に増大し接触部の摩擦が大きく働くからです。超潤滑はマイクロ・マシンの摺動部の摩擦を小さくするのに欠かせないでしょう。また通信用の人工衛星が働く宇宙空間は超潤滑応用の格好な場所であると考えられます。
 その他に、超潤滑と生体系でべん毛や筋肉の収縮運動などでの高い仕事効率との関連が指摘されています。超潤滑は摩擦の基礎的研究と応用技術開発へ新たな地平線を築くことが期待されます。

参考文献


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